アカウンティング講座【中級編】第17回:包括利益計算書の構造
サマリ
包括利益計算書は、企業の一年間のすべての利益変動を示す重要な財務諸表です。従来の純利益だけでなく、その他包括利益を含めることで、企業の経営成績をより正確に把握できます。この記事では、構造と読み方を分かりやすく解説します。
詳細
そもそも包括利益とは何か
包括利益とは、企業が一定期間に獲得したすべての利益のことです。大きく分けて二つの要素があります。一つは従来の利益計算書に出てくる「当期純利益」で、売上から全ての費用を差し引いた利益です。もう一つが「その他包括利益」と呼ばれるもので、これまで損益計算書に直接計上されなかった利益変動を指します。
例えば、外国為替の変動によって生じた利益や、有価証券の評価益などが該当します。2010年の会計基準改正によって、日本でも包括利益計算書の表示が義務化されました。
包括利益計算書の基本的な構造
包括利益計算書は、上から順に以下のような項目で構成されています。
まず最初に出てくるのが「売上高」です。企業の営業活動によって得られた収益の総額です。2023年度に年間1,000億円の売上を得た企業があるとしましょう。
次に「売上原価」を差し引きます。商品の製造にかかった原材料費や労務費などです。売上高から売上原価を引くと「売上総利益(粗利益)」が出ます。上の例では売上が1,000億円で、売上原価が600億円なら、粗利益は400億円になります。
その後「販売費及び一般管理費」を差し引きます。営業に必要な人件費や広告宣伝費などです。これを差し引いた後の「営業利益」は、企業の本業の稼ぐ力を示す重要な指標です。
営業外収益や営業外費用(利息収入や借入金の利息など)を加減することで「税前当期純利益」に至ります。法人税などを差し引いた後の「当期純利益」までが、従来の損益計算書に含まれる内容です。
その他包括利益の種類
ここからが包括利益計算書の独特な部分です。当期純利益を出した後に、「その他包括利益」という新しいセクションが始まります。
主な項目としては、まず「有価証券評価差額金」があります。保有している株式や債券の時価が変動した際の利益や損失です。株価が上昇すれば評価益が、下落すれば評価損が発生します。
次に「為替換算調整勘定」です。海外子会社の資産や負債を日本円に換算する際に生じる差額を表します。円安が進めば評価益になり、円高が進めば評価損になります。
「年金数理計算上の差異」も重要な項目です。退職給付債務の計算で使用する割引率や従業員の給与上昇率などの前提条件が変わった場合に発生する差額です。
当期純利益と包括利益の違い
ここで重要なポイントです。当期純利益と包括利益は、かなり異なる値になることがあります。
例えば、ある年の当期純利益が100億円だったとしても、その他包括利益で20億円の評価損が発生していれば、包括利益は80億円になります。逆に30億円の評価益が出ていれば、包括利益は130億円です。
特に、多くの海外子会社を持つ企業や、多額の有価証券を保有する企業では、この差が大きくなる傾向があります。2022年度のデータでは、上場企業全体の平均では当期純利益と包括利益の差は5~10%程度ですが、企業によっては大きく異なります。
包括利益計算書を読む際の注意点
包括利益計算書を分析する際は、いくつか気をつけるべき点があります。
まず、その他包括利益は短期的な市場変動に大きく左右されるという特性を理解することです。当期純利益は企業の実際の経営成績を示していますが、その他包括利益は評価の変動を示しているだけで、実際の現金の出入りとは異なる場合も多いです。
次に、継続性と経営方針を見ることが重要です。毎年同じような評価益や評価損が出ているのか、それとも一時的な変動なのかを判断する必要があります。
最後に、業種による特性を理解することです。保険業や銀行などの金融機関は有価証券を大量に保有しているため、その他包括利益が大きくなりやすいです。一方、製造業では相対的に小さくなる傾向があります。
まとめ
包括利益計算書は、企業の真の経営成績を包括的に理解するための重要な財務諸表です。当期純利益とその他包括利益の両方を見ることで、より多角的な分析が可能になります。次回以降の中級講座では、さらに詳しい活用方法を解説していきますので、この基本的な構造をしっかり理解しておくことをお勧めします。
