今日から学ぶサクッと量子コンピュータ講座【初級編】第5回:量子もつれ(エンタングルメント)とは
サマリ
量子もつれは、複数の量子が不思議な方法でつながっている現象です。一つの量子を測定すると、遠く離れた別の量子の状態が瞬時に決まります。量子コンピュータの強力な計算能力を生み出すカギとなる、最も重要な概念の一つです。
詳細
量子もつれとは何か
量子もつれは、英語ではエンタングルメントと呼ばれます。簡単に言うと、二つ以上の量子がペアになって、互いに影響し合う状態のことです。
通常、物の状態は独立しています。Aさんのコインが表なら、Bさんのコインは裏かもしれません。二つは無関係です。しかし量子の世界では違います。二つの量子がもつれると、測定するまでどちらも確定しないまま、でも深くつながっているのです。
不思議なのはここからです。Aの量子を測定して「0」だと判明すると、同時にBの量子は「1」に決まります。Bがどこにあろうと、その瞬間に状態が決まるのです。アインシュタインはこれを「遠隔作用」と呼んで、当初は信じていませんでした。それほど奇妙な現象なのです。
なぜ重要なのか
量子コンピュータが強力な理由の多くは、この量子もつれにあります。
普通のコンピュータはビットで計算します。0か1か、どちらかです。100ビットあれば、一度に確認できる状態は1つだけ。全部の組み合わせをチェックするには、膨大な時間がかかります。
一方、量子コンピュータは量子ビット(キュービット)を使います。100個の量子ビットが全部もつれ合うと、なんと2の100乗、つまり約1.27京(けい)という天文学的な数の組み合わせを同時に扱えるのです。これが量子コンピュータの爆発的な計算能力の秘密です。
具体例で理解しよう
もつれをイメージしやすくするために、例え話をします。
魔法のペアの箱があると想像してください。一つの箱をアメリカに、もう一つを日本に送ります。どちらの箱も「開けるまで」中身がボール(赤か青)で確定していません。でもアメリカの箱を開けて赤いボールが出たら、その瞬間、日本の箱には必ず青いボールが入っているのです。距離も時間も関係なく。これが量子もつれです。
ただし注意点があります。この現象を使って情報を超光速で送ることはできません。送信側が「今、赤が出た」と相手に知らせるには、従来の通信手段が必要です。そこが光速の壁を超えない理由です。
量子もつれを作る方法
実際に、研究者たちはどうやって量子もつれを作るのでしょうか。
一つの方法は、特殊な光源を使うことです。特定の条件で発光させると、もつれた光子のペアが生成されます。また、超低温に冷やしたイオンや超伝導回路を使う方法もあります。
現在、Google、IBM、国内ではソニーなどが量子コンピュータを開発していますが、いかに安定した量子もつれを作り、保ち続けるかが大きな課題です。温度変化や外部の振動で簡単に壊れてしまうからです。
今後の展開
量子もつれの応用は計算だけに留まりません。量子暗号という絶対に解読できない暗号通信の実現も進んでいます。2022年時点で、複数国が量子鍵配送ネットワークの構築を急いでいます。
また、量子センサーという超高精度の測定機器の開発も進行中です。これが実現すれば、医療診断や地震予知の精度が劇的に向上する可能性があります。
量子もつれは、単なる物理学の不思議ではなく、次の世代の技術革命を担う概念なのです。理解することで、これからの科学がどこへ向かうのか、少し見えてくるかもしれません。
