経営戦略講座【中級編】第3回:事業ポートフォリオ管理とPPM分析
サマリ
企業が複数の事業を持つとき、どの事業にどれだけ経営資源を配分するかが成長を左右します。この記事では、事業ポートフォリオ管理とPPM分析の考え方を解説。戦略的な経営判断のための実践的なフレームワークを学べます。
詳細
事業ポートフォリオ管理とは何か
事業ポートフォリオ管理とは、企業が保有する複数の事業を、まるで投資ポートフォリオを組むように戦略的に組み合わせ、管理することです。
例えば、大手食品メーカーが「調味料事業」「冷凍食品事業」「飲料事業」を持っているとしましょう。この3つの事業は、成長段階や収益性、成長率がそれぞれ異なります。各事業に同じ配分で資源を配置するのではなく、事業の特性に応じて最適な経営資源(人・金・情報)を配分することが重要なのです。
この考え方により、企業全体の持続的な成長と収益性を確保できます。
PPM分析とは
PPM分析は「Product Portfolio Management(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)」の略です。1970年代にボストン・コンサルティング・グループが開発した有名なフレームワークです。
PPM分析では、2つの指標で事業を4つのカテゴリーに分類します。
1つ目の指標は「市場成長率」です。市場全体がどのくらいの速度で成長しているかを示します。
2つ目の指標は「相対的市場シェア」です。その事業が市場全体に占める自社のシェアの大きさを表します。競合他社との比較のなかで、自社がどの程度の地位にあるかが重要です。
4つのカテゴリーと戦略
PPM分析では、事業を以下の4つのカテゴリーに分類します。
【スター】市場成長率が高く、市場シェアも大きい事業です。将来の成長が期待されます。ここには積極的に投資して、競争優位を保つ必要があります。例えば、スマートフォンの黎明期に参入し、高いシェアを持つメーカーはこれに該当しました。
【金のなる木】市場成長率は低いが、市場シェアが大きい事業です。すでに確立した事業であり、安定した利益をもたらします。ここから得た利益を他の事業に投資します。例えば、ロングセラー商品がこれに該当することが多いです。
【問題児】市場成長率は高いが、市場シェアが小さい事業です。成長の可能性はありますが、現在は赤字かもしれません。「スター」へ育てるか、撤退するか、戦略的な判断が求められます。
【犬】市場成長率も市場シェアも低い事業です。競争力が弱く、利益も期待できません。撤退や事業縮小を検討する対象となります。
実際の活用例
実在する企業の事例を見てみましょう。電子機器メーカーのシャープは、液晶パネル事業を「スター」として大規模投資してきました。当時、液晶技術の成長率は高く、シェア確保が重要だったのです。
一方、フィルム写真事業を主力にしていた富士フイルムは、デジタル化の波を受けて、この事業を「犬」と判断しました。同社は医療用途など新分野への転換を進め、経営資源の再配置に成功しています。
このように、業界の成長トレンドをいち早く読み、各事業の立ち位置を正確に把握することが、戦略的な経営判断につながるのです。
PPM分析の限界と注意点
PPM分析は有用なツールですが、万能ではありません。3つの注意点があります。
まず、市場を定義する範囲によって結果が大きく変わることです。「調味料」と広く定義するのか、「醤油」と狭く定義するのかで、市場成長率は異なります。定義の設定が戦略的判断を左右するため、慎重な検討が必要です。
次に、定量的な指標だけでは判断できない経営的価値があることです。赤字でも、ブランドイメージ向上や顧客基盤の拡大に貢献する事業もあります。
さらに、市場環境は急速に変化します。2020年のコロナ禍は多くの企業のポートフォリオを大きく変動させました。分析結果に一定の幅を持たせ、定期的に見直すことが重要です。
経営戦略への統合
事業ポートフォリオ管理は、経営資源の配分を決めるための第一歩です。その後、各事業の具体的な戦略(競争戦略)を立案し、実行していきます。
つまり、「どの事業に注力するか」を決めるのがポートフォリオ管理で、「どのように戦うか」を決めるのが個別事業の戦略です。両方が揃って初めて、企業の成長が実現されるのです。
複雑な経営判断に直面したとき、PPM分析のような論理的なフレームワークは、判断の拠り所となります。ぜひ実務で活用してみてください。
