今日から学ぶサクッと量子コンピュータ講座【中級編】第14回:量子暗号と量子鍵配送
サマリ
量子の性質を利用した暗号化技術は、従来の暗号方式では不可能な「盗聴の検出」を実現します。特に量子鍵配送(QKD)は理論上100%の安全性を持つため、金融機関や政府機関が注目しています。本記事では、その仕組みと実用化の現状をわかりやすく解説します。
詳細
従来の暗号化とその限界
私たちが日常で使うネットショッピングやメール。これらの通信は、RSA暗号やAES暗号といった数学的な暗号で守られています。しかし問題があります。これらの暗号は、コンピュータの計算能力が十分に高ければ、理論上は解読可能なのです。
実は今のコンピュータでは解読に数十年かかるのですが、量子コンピュータの登場により事情が変わります。数年で解読できるようになる可能性があります。銀行が保管している重要な機密情報も、将来危険にさらされるかもしれません。そこで登場するのが「量子暗号」です。
量子暗号の基本原理
量子暗号は、光の粒子(光子)という単位で情報を送受信します。光子には素晴らしい性質があります。「観測されると状態が変わってしまう」という量子力学の根本原理です。
これを利用します。盗聴者が光子を観測すると、その状態が変わります。すると送信者も受信者も「何者かが通信を傍受した」と気づくわけです。つまり、盗聴を必ず検出できるのです。これが従来の暗号にはない特徴です。
量子鍵配送(QKD)の仕組み
量子鍵配送は、暗号化に必要な「鍵」を安全に共有する技術です。最も有名な方式が「BB84プロトコル」です。1984年に開発された方式で、その名はこの年号から来ています。
仕組みはシンプルです。送信者アリスが、光子の向きを4つのパターン(0度、45度、90度、135度)のいずれかに設定して送ります。受信者ボブは、ランダムに選んだ測定方法でこの光子を測定します。
興味深いのはここからです。アリスとボブが公開チャネル上で「どの測定方法を使ったか」を比較します。一致した場合のみその測定結果を鍵として採用するのです。盗聴者イブがいたら、彼女が光子を観測することで状態が変わり、ボブが測定した結果に矛盾が生じます。これで盗聴が検出されます。
実用化の現状
量子鍵配送は既に実用段階に入っています。スイスの銀行は2007年から導入を開始しました。中国も積極的で、2016年に「墨子」という量子衛星を打ち上げ、衛星を使った量子鍵配送の実験を行っています。
日本でも動きが活発です。2022年には複数の企業が量子鍵配送ネットワークの構築を発表しました。距離としては現在、光ファイバーで数百キロメートル程度の送受信が実現しています。
ただし課題もあります。装置が高額で、導入コストが数百万円から数千万円かかります。また通信速度も従来のインターネットより遅いです。そのため現在は、特に高い機密性が必要な金融機関や政府機関での利用が中心です。
量子コンピュータ時代への備え
量子コンピュータが実用化される2030年頃までに、企業や国家は重要な情報の保護方法を切り替える必要があります。これを「暗号の移行」と呼びます。
量子鍵配送はその切り札になるでしょう。理論上、解読不可能な安全性を持つからです。今からの準備が、未来のセキュリティを守ることになります。
