今日から学ぶサクッと量子コンピュータ講座【中級編】第9回:NISQ時代の量子コンピュータ
サマリ
NISQ(ニスク)時代とは、完全に実用的な量子コンピュータが出現する前の現在を指します。ノイズが避けられない50~1000量子ビット程度の段階で、実際にどんなことができるのか、現在の課題は何かを分かりやすく解説します。
詳細
NISQ時代とは何か
NISQ(Noisy Intermediate-Scale Quantum)は、2018年にアメリカの物理学者ジョン・プレスキル博士が提唱した概念です。日本語では「ノイズのある中規模量子」と訳されます。
簡単に言うと、今の量子コンピュータはまだ完璧ではなく、計算の途中でエラーが発生しやすい状態にあります。その時代を指しているわけです。現在、Google、IBM、東大、産業技術総合研究所など世界中の組織が50~1000個の量子ビットを持つマシンを開発しています。
従来のコンピュータは、1と0の状態がはっきり区別されています。一方、量子コンピュータの「量子ビット」は、量子力学の性質により、1と0の状態が同時に存在できます。これを「重ね合わせ」と呼びます。しかし観測するとどちらかに決まってしまいます。NISQ時代のマシンはこの特性を活かしながらも、エラーと戦っている段階なのです。
なぜノイズが発生するのか
量子ビットは非常にデリケートな存在です。温度変化、磁場のゆらぎ、電磁波など、わずかな環境の変化でも影響を受けます。このような外部からの干渉が「ノイズ」となり、計算の精度を落とすのです。
現在のNISQ時代の量子コンピュータでは、エラー率が1~10パーセント程度あります。つまり100回の計算操作のうち、1~10回は間違った結果が出る可能性があるということです。これは従来のコンピュータとは比較にならないほど高いエラー率です。
さらに、量子ビット数が増えるほど、全体のエラー率も急速に増加します。これは「スケーラビリティの課題」と呼ばれており、NISQ時代の最大の悩みの種です。
NISQ時代に実用化されつつある技術
エラーが多いとはいえ、既に実用化に向けた研究が進んでいます。例えば医薬品開発です。新しい薬を開発する際、分子の挙動をシミュレーションする必要があります。この分野では古いスーパーコンピュータより、ノイズのある量子コンピュータの方が有利な場合があることが分かってきました。
また、最適化問題の解決も進んでいます。配送ルートの最適化、金融ポートフォリオの最適配分など、複雑な問題を解く際に量子コンピュータの力が役立ちます。2023年、IBMとGoogleはNISQ段階での実用的な成果を複数報告しています。
機械学習分野も注目されています。量子機械学習は、膨大なデータパターンの認識に優れている可能性があります。現在、大手IT企業や研究機関が積極的に研究開発を進めています。
エラー訂正への取り組み
NISQ時代を抜け出すためには、エラー訂正が不可欠です。古典的な方法では、1つの情報を複数の量子ビットで冗長的に表現することでエラーを検出し、修正します。しかし、訂正自体がノイズを生み出すという難しさがあります。
理論的には、約1000個の物理量子ビットを使って、1個の「論理量子ビット」(エラーが修正された状態の量子ビット)を作ることができます。これは膨大な資源を必要とします。そこで、新しいエラー訂正の方法も研究中です。
2024年現在、この課題を解決できた組織はまだありません。ここが次のステップへの重要な鍵となります。
NISQ時代の先に見える未来
NISQ時代は、おそらく今後5~10年続くと予想されています。その後、エラー訂正が実用的なレベルで実現すれば、「フォールトトレラント量子コンピュータ」の時代が来ます。この段階では、本当の意味で古典コンピュータを超える計算能力を発揮できるようになるでしょう。
今のうちから量子コンピュータの基礎知識を身につけることは、今後のキャリアにおいて大きなアドバンテージになります。NISQ時代は、量子コンピュータの発展を目撃し、学ぶ絶好の機会なのです。
