今日から学ぶサクッと脳科学講座【初級編】第18回:加齢による脳の変化
サマリ
年を重ねると脳にはどんな変化が起きるのでしょうか。神経細胞の数が減ったり、脳の萎縮が進んだりと、様々な変化が生じます。しかし、適切な生活習慣によってこれらの変化を遅延させることは十分に可能です。脳の老化メカニズムと対策について詳しく解説します。
詳細
脳の加齢による物理的な変化
加齢とともに、脳には目に見える物理的な変化が起こります。最も顕著なのは「脳萎縮」です。これは脳の容積が減少することを指します。
一般的に、20代をピークに脳の体積は毎年約0.5~1%減少していくとされています。70代では20代と比べて約5~10%も小さくなってしまうのです。特に脳の前部にある「前頭葉」という部分の萎縮が顕著です。
また、脳を構成する「灰白質」と「白質」という2つの物質も加齢とともに変化します。灰白質は神経細胞の本体が集まった部分で、思考や判断に関わります。一方、白質は神経細胞の軸索という部分が集まったもので、脳の異なる領域を結ぶ通信ケーブルのような役割をしています。加齢により、両者ともに量が減少していくのです。
神経細胞とシナプスの変化
脳は約860億個の神経細胞で構成されています。驚くことに、私たちは毎日約10万個の神経細胞を失っているのです。特に記憶や学習に関わる「海馬」という領域では、加齢による神経細胞の減少が他の部位よりも著しいことが分かっています。
また、神経細胞同士の連絡所である「シナプス」の数も減ります。若い時期には1つの神経細胞が数千~数万のシナプスを形成していますが、年を重ねると、使われていないシナプスから消失していきます。これは「Use it or lose it」という原則に従っています。要するに、使わない結合は削除されるということです。
神経伝達物質の低下
脳の働きを左右する重要な物質が「神経伝達物質」です。これはシナプスを通じて神経細胞間の情報をやりとりする化学物質です。
加齢とともに、重要な神経伝達物質の濃度が低下します。特に注目すべきは「ドーパミン」という物質です。ドーパミンは喜びややる気を司る物質で、加齢により約10年ごとに10%程度減少すると言われています。また「セロトニン」も同様に低下し、気分調整に影響を与えます。
認知機能への具体的な影響
これらの脳の変化は、認知機能にどう影響するのでしょうか。
実験では、60代の人と20代の人を比較すると、反応速度や情報処理能力で有意な差が見られます。また「作業記憶」という、一時的に情報を保持して処理する能力も加齢とともに低下します。この能力が低下すると、複数のタスクを同時に処理しにくくなるのです。
ただし、希望もあります。「結晶性知能」と呼ばれる、経験から培った知識や判断力は、むしろ加齢とともに向上する傾向があるのです。これは高齢者が若者よりも良い判断ができることが多い理由でもあります。
脳の老化を遅延させる対策
朗報です。脳の老化は避けられませんが、遅延させることは十分に可能です。
まず「有酸素運動」が効果的です。週3回以上の運動により、脳容積の減少速度を約50%低下させられるという研究結果があります。ウォーキングで十分なので、習慣化することが重要です。
次に「学習」です。新しいことを学ぶことで、シナプスが活性化し、新たな神経回路が形成されます。言語学習や楽器練習などが効果的です。
さらに「睡眠」も不可欠です。深い睡眠中に、脳は記憶の定着と不要な物質の排出を行います。毎晩7時間程度の睡眠を心がけましょう。
最後に「社会的交流」も見逃せません。他者との関わりは脳に豊かな刺激を与え、神経細胞の活性化につながります。
まとめ
加齢に伴う脳の変化は自然な現象です。しかし、その変化のスピードは、私たちの生活習慣で大きく変わります。運動、学習、睡眠、社会交流という4つの柱を意識することで、より健康で活動的な脳を維持できるのです。今日からでも遅くありません。始めましょう。
