今日から学ぶサクッと脳科学講座【中級編】第12回:加齢による脳の変化と認知機能
サマリ
脳は加齢とともに物理的に萎縮し、特に前頭葉と海馬が影響を受けます。しかし認知機能の低下は必然ではなく、運動や学習といった活動で脳の予備能力を高めることができます。加齢による脳の変化を理解し、適切な対策を取ることで、認知機能を維持・向上させることが可能です。
詳細
加齢による脳の物理的変化
私たちの脳は、20歳をピークに年1パーセント程度萎縮し始めることをご存知でしょうか。これは決して珍しい現象ではなく、ほぼすべての人に起こります。
特に影響を受けやすい領域があります。それが前頭葉と海馬です。前頭葉は意思決定や計画立案、実行機能を担当しています。一方、海馬は新しい記憶を形成する司令塔です。これらの領域が縮小すると、判断力が低下したり、新しいことを覚えにくくなったりします。
ただし、脳全体が均等に萎縮するわけではありません。脳の深部にある小脳も縮小しやすいのですが、こうした部位と脳全体のネットワークの質が、実は認知機能に大きく影響を与えるのです。
神経伝達物質の変化と加齢
脳が老化する過程で、もう一つ重要な変化が起きます。それが神経伝達物質の減少です。
神経伝達物質とは、脳の神経細胞間で信号をやり取りする化学物質です。特にドーパミンとアセチルコリンが重要です。ドーパミンはやる気や報酬系に関わり、アセチルコリンは記憶形成に不可欠です。
研究によると、65歳までにドーパミンは約50パーセント低下するとされています。これが動機づけの低下や意欲減退につながります。幸いなことに、定期的な運動で脳由来神経栄養因子(BDNF)が増加し、ドーパミンの働きをサポートすることが報告されています。
認知機能の領域別変化
認知機能は一括りにはできません。加齢の影響を受けやすい機能と、比較的保たれる機能があるのです。
まず低下しやすいのが、処理速度と作業記憶です。処理速度とは情報を素早く処理する能力で、年1パーセント程度低下します。作業記憶は、一時的に情報を保持する能力です。これらは前頭葉の機能と密接に関わっています。
一方、結晶性知能と呼ばれる、積み重ねた知識や経験に基づく判断力は、むしろ65歳くらいまで維持されることが多いです。つまり、年を重ねても人生経験による判断力は衰えないということです。これは非常に興味深い事実です。
脳の可塑性と予備能力
朗報があります。脳は加齢後も学習と適応が可能なのです。これを脳の可塑性といいます。
神経は一度形成されると変わらないという考えは、20世紀初頭の古い常識です。実は脳は毎日、新しい神経細胞を作り続けています。特に海馬では、高齢期でも1日あたり700個程度の新しい神経細胞が生まれるというデータもあります。
また、脳の予備能力という概念も重要です。これは、複数の脳領域がある機能をバックアップするため、一部が損傷しても他の領域が補償できるという仕組みです。高齢者でも継続的に学習や運動を行うと、この予備能力が維持・向上します。
認知機能を守るための実践的方法
では実際に何をすればよいのでしょうか。
まず運動です。週3回30分以上の有酸素運動を行うと、認知機能の低下が20パーセント緩和されるという報告があります。特にウォーキングのような習慣づけやすい運動がおすすめです。
次に新しい学習です。言語学習や楽器演奏は、複数の脳領域を同時に活性化させます。高齢者でも新しい言語習得で脳容量が増加したという研究結果もあります。
そして社会的交流も重要です。会話や人間関係の維持は、前頭葉と側頭葉を同時に使用し、認知予備能を高めます。
最後に睡眠と栄養です。良質な睡眠は脳内の老廃物除去に、ビタミンEやオメガ3脂肪酸は神経細胞の保護に役立ちます。
まとめ
加齢による脳の変化は避けられませんが、認知機能の低下は確定的なものではありません。脳の可塑性と予備能力を活用し、適切な生活習慣を継続することで、生涯にわたり脳を活き活きとした状態に保つことは十分可能なのです。
